【連続対談企画#4】HSPブームを受けておがたちえさんは何を思う?
HSPとは、繊細で敏感な気質ということで、生きづらいという文脈で言葉が広がっていきました。
そして、1年前~半年前くらいに、テレビや芸能人がHSPを取り上げるようになり、HSPの知名度がかなり高まりました。
この状況を「HSPブーム」と揶揄する人も現れるようになりました。
この「HSPブーム」に対しては、HSPについて誤った認識が広がるなど負の面も見られるようになり、SNSを中心に問題視される声も多数あがりました。
そこでこの度は、この「HSPブーム」をテーマに複数の方々と対談をすることとしました。(前回の対談は、以下のリンクをご参照ください。)
【連続対談企画#3】HSPブームを受けてみさきじゅりさんは何を思う?
4回目(本連続企画の最後)の対談は、おがたちえさんがお相手です。
おがたちえさんとの対談を踏まえ、表現の観点から、「HSPブームの問題点」について考察した内容を記事にまとめました。
「HSP」ブームをテーマに対談を実施することに至ったきっかけや趣旨については、以前の記事にまとめていますので、こちらも併せてご覧いただければと思います。
【連続対談企画 始めます】HSPブームを受けて発信者たちは何を思う?
この記事の目次
対談のお相手(おがたちえさん)
・おがたさんは漫画家として、HSPの方々に向けて、読みやすく漫画を通じて情報発信をされています。
・個人的には謎のヴェールに包まれている方だったのですが、漫画を通じて伝わってくる雰囲気より、さらに柔らかい雰囲気の方ですごくお話しやすかったです!
・おがたちえさんは長い間、漫画家としてご活動されてきたご経歴を踏まえ、「表現」の観点からHSPブームの問題についてお伺いしました。
おがたちえさんのTwitter→こちら おがたちえさんのnote→こちら |
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対談内容のまとめ
(1)HSPの方に向けた漫画を描き始めたきっかけ
おがたさん「最近ではHSPの方々に向けて漫画を描くことが多くなりましたが、それまでは別のテーマで漫画を描いてきました。ただ、好きな仕事である漫画が描き続けるのがしんどくなってしまうくらい、大きな悩みを抱えてしまったことがありました。それが2018年頃だったのですが、ちょうどHSPに関する著書を書店で目にする時期でもあって、悩みをきっかけに自分がHSPだと気づきました。」
おがたさん「はい、私は仕事で悩みを抱えていた時に、自分の弱さを責めていました。だけど、HSPという概念に出会うことによって、自分の落ち込みやすさは特別じゃなくて、他にもこういう悩みを抱えている人はたくさんいるということに気づけてすごく楽になったんです。「なんで自分はダメなんだろう…」という自責的な考え方から抜け出すことができて、前に踏み出すことができました。」
私自身も、おがたちえさんと同時期に、悩みをきっかけにHSPという概念を知りました。
そのとき、私もおがたちえさんと同様に、「自分の生きづらさは自分だけのことじゃなかった(≒自分は異常ではなくて普通だった)」という感覚を持てたので、すごく安心したことを思い出しました。
同時に、私がSNSでHSPに関する発信を見ていて違和感を感じる理由が、なんとなく分かった気がしました。
それは、「HSPである私は普通」という考え方をもとに発信する人と、「HSPである私は特別」という考え方をもとに発信する人が混在しているからなのかもしれません。
とはいえ、HSPの定義は「感受性を3区分した際の高感受性群(30%程度)で環境から影響を受けやすい人」であることを踏まえて、そもそも30%という数字は少数派とは言えませんし、特別な能力を持つと証明されているわけではありませんので、「HSPである私は特別」という感覚を強く持ちすぎると過信につながる可能性がある気はしています。
おがたちえさんから、非常に貴重な裏話をお聞かせいただきました。
あまり漫画に詳しくない人にとっては、編集者という立ち位置の方を知らない人もいらっしゃるかもしれませんが、書き手にとっては重要な意味を持ちます。
普段私たちが見ている漫画は、著者一人で書いているイメージがありますが、実際には著者&編集者が二人三脚で作り上げていくものです。
最近はインターネット上で企業が絡まずに編集者不在の漫画が増えていますが、こうした漫画は著者自身の力が強く問われることになります。
おがたちえさんは、悩みがあって仕事のモチベーションが落ちていた時に、HSPという概念に出会えたことをきっかけに、編集者不在の4コマ漫画を100本描くということに挑戦し、描ききったわけです。(そのあと、この4コマ漫画とは別に、1コマ漫画も100本描かれています。)
私自身は「HSPという概念が悩みを抱えている人たちの行動がプラスに変わっていく言葉になってほしい」と思っていますが、おがたちえさんは、まさに自分自身の行動(漫画を描くということ)でそれを体現されたのではないかと思いました。
おがたちえさんが仰るとおり、私自身も漫画の力を強く感じたことがありました。
それは、私自身もメンタルが病んでいた時に、文字が頭に入ってこないことがあったのですが、漫画であればある程度読むことができたからです。
2017年にベストセラーとなった漫画「うつヌケ」は、それを象徴していると思います。
これは、私自身も心が救われた漫画となりました、レビューなどでも心が救われたという人が非常に多いです。
実際、この漫画では「どうやってうつを抜けたか?」という描写はあるものの、どちらかというと、うつ病のつらさの実情を視覚的に描写している内容が多いです。
ただ、そういう内容でも、「心が救われた」と思った人が多かったわけです。
つまり、「ツラい状況からの抜け方」が明確にわからなくても、「自分のツラい状況が客観的に見える」だけでも、悩んでいる人にとっては非常に意味があるわけです。
さて、話をHSPに戻しましょう。
昨今の「HSPブーム」においては、誤った知識が広がることについて、疑義の声がSNSで多数挙がっています。
もちろん、こうした疑義は非常に大切です。
ただ、その一方で、おがたさんのHSPの方に向けた漫画を読んで、「自分のツラい状況が客観的に見える」ことで心が救われた人も多いことが推察できます。
もちろん、漫画のような「分かりやすい表現」は、事実誤認を生む可能性もあります。
ただ、事実は事実として押さえておく一方で、漫画のような「分かりやすい表現」は、人の心に何かを届けるためには必要なものだと私は思っています。
(2)HSPブームに思うこと
おがたちえさんのおっしゃるとおり、表現の仕方を気をつけていても、批判の対象となることがあります。
私自身も、特定の誰かに忖度はしないものの、誰かの心を傷つけないような表現で発信するように努めていましたが、まさに私の発信で、おがたちえさんを傷つけていたわけです。
恐らく、おがたちえさん以外にも、私の発信で心が傷ついた人がいたのかもしれません。
その点は大変恐れ多いと感じるとともに、私もより一層表現を気をつけていかなければいけないと思いました。
また、おがたちえさんは「自分を責めた」と仰っていましたが、HSPブームにおいては、発信者の中にも「自分が誤った知識を広げた」という自責感を持つ人も多かったのかもしれません。
この間、HSPに関する発信をやめた方が多かったですが、こうした気持ちがHSPブームにおいては渦巻いていたのかもしれません。
おがたちえさんが仰っていたことは、漫画をはじめとして表現を仕事とする人であれば「事実とエンタメ性のバランス」について、誰もが葛藤する点だと思います。
趣味程度にブログをやっている私ですら、事実を事実のとおりに書いても誰も読んでくれないので、表現を面白く凝ろうと努力します。
その一方で、おがたちえさんのように、一部の人を除けば、事実誤認にならないように最大限の努力をするわけです。(特におがたちえさんは商業誌の経験が長いので、その意識はより一層強いのだと感じられました。)
ただ、どうしても漫画という媒体は、言葉を最大限にそぎ落とさなければいけないので、一部の人には異なった解釈として伝わってしまう場合があると私は思います。
もちろんのこと、情報の発信側が「誤った情報を広げない」ということは、絶対に気をつけなければいけないと思っています。
ただ、どうしても昨今のインターネットでは、情報の受け手が過剰に情報を信じたり、過剰に誰かを批判したりすることを散見します。
昔、2ちゃんねるが流行っていたときは匿名文化だったこともあり、良くも悪くも情報が掲載された時には「ソースは?」と、情報源を確認する傾向にありました。
その一方で、非匿名であるSNS文化である今は、「この人が言うことは信頼できる」「いいねがいっぱいついているから共感できる」と、情報源を確認しない傾向もみられるようになりました。
私は、情報が多くなった今の時代だからこそ、一つの情報を妄信するのではなくて、「これはあくまで一意見」と意識することが大事なんじゃないかと思います。
そのうえで、一つのことに対しても、私は色んな情報や色んな表現があることが大事だと思っています。
そして、HSPにおいても、漫画のような親しみやすい媒体での発信自体は否定されるべきではないと思います。
なぜなら、HSPという言葉が流行った裏にはその分人の悩みがあるわけで、先ほどお伝えしたとおり、漫画のような親しみやすい媒体を通じて「心が救われた」と思う人も多いからです。
社会で言われる「表現の自由」は、一つの強い意見によってすべての意見が淘汰されるのを防ぐ側面もあると考えており、明らかに不正確の情報や反モラル的な情報は一定制限されるべきではあるものの、色んな考え方が共存しているからこそ、中立性が生まれると考えています。
(3)HSPの仕事のペースの保ち方
私自身も締切が迫ると過剰に不安になってパフォーマンスも落ちてしまうので、おがたちえさんとお話をしていて、締切から前倒しして仕事を進めることは大事だと思いました。
ある意味、HSPの人がマルチタスクが苦手だと主張する人も多いですが、その背景には締切に対する不安感情が潜んでいるのかもしれません。
その一方で、社会は非情な側面も持つため、いくら頑張っても今の仕事のままでは能力が追いつかない人もいますし、会社自体の体質が良くなくて過剰業務量になってしまう場合もあります。
仕事の内容においても人間関係においても、「締切から前倒しして仕事を進められているのか?」という点は、もちろん自分自身で工夫しなければいけないこともありますが、今の仕事が合っているのかを考える上では大事な観点なのかもしれません。
HSPの適職として、自分のペースで進められる仕事が挙げられる場合があります。
ただ、おがたちえさんのお話を伺っていると、自分一人で仕事を進めるイメージのある漫画家でさえ、人間関係があります。
特に、漫画家をはじめとして会社に勤めていないと、対会社や対個人との契約関係となりますので、締切などはよりシビアになりますし、理不尽なことを求められることもあると思います。
また、「HSPはフリーランスに向いている」と言われることもありますが、おがたちえさんも仰っていたとおり、会社に勤めていないと金銭面での不安が強い人も多いと思います。
もちろんケースバイケースで、「今の会社を辞めたほうが良い」という場面もある一方で、「今の会社を辞めないほうが良い」という場面もあるわけです。
(4)仕事をしながらの家族との向き合い方
私はTwitterを見ていると、HSP界隈においては、タイムライン上に家族や子育てとの悩みについての声を見ることもあります。
また、「モラハラ」という声も、SNSを中心によく見るようになりました。
どうしても、私は未婚なのでこうした悩みが分からない部分もあり、おがたちえさんに思い切ってご家族のことや子育てのことについて伺いました。
そしたら、今の日本の状況を踏まえても大事な意見を聞くことができました。
・以前は短かった女性の有償労働時間が伸び,男性も女性も有償労働時間が長いが,特に男性の有償労働時間は極端に長い。
・無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い。
・男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長く,時間的にはすでに限界まで「労働」している。
ここでいう有償労働とは給料を伴う労働(いわゆる仕事)を指し、無償労働とは家事や子育てなど給料を伴わない労働を指します。
この内閣府の統計を踏まえると、日本では無償労働(家事や子育て)が女性に集中しているものの、男性は家族や子育てができないほど有償労働(仕事)をしている状況にあることがわかります。
もちろん個人の性格によるものはあるかもしれませんが、こうした社会背景が家族を歪ませてしまい、SNS上では「モラハラ」などの言葉として表出しているのかもしれません。
おがたちえさんが仰っていた、夫婦ともに経済的に自立している(シェアハウスに住む感覚)というのは、今の日本にも求められる一つの家庭の姿なのかもしれません。
先ほども言ったとおり、日本では性別関係なく、限界にまで働いていることはデータで示しました。
そういう意味では、「自分は相手よりもツラい」という気持ちを持っていると、家庭内で相互理解ができなくなってしまうのかもしれません。
逆に言えば、「自分も相手も限界まで働いている」というのが事実なので、これを考え方のベースに置けば、家庭内の関係において相互理解の促進につながるのかもしれません。
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おわりに
まずは今回、対談企画にご協力いただいたおがたちえさんにこの場をもって感謝申し上げたいと思います。
貴重な時間を本当にありがとうございました。
今回は、おがたちえさんとの対談を踏まえ、表現の観点から「HSPブームの問題点」について考察してきました。
さて、今回で連続対談企画は終了となります。
おそらく「HSPブーム」を受けて、SNSなどでは攻撃的なツイートも増えて、自分の考え方を発信できなかった人も多くいらっしゃったのではないかと思います。
こうした状況を揶揄して、私は先日こんなツイートをしました。
HSPのことを知れば知るほど、「自分はHSPだ」と主張しづらくなる。#HSPあるある #HSPの功罪
— ぽん乃助@繊細な人の働き方戦略家/ブロガー (@suke_of_pon) May 6, 2021
私は、「事実は事実」として、「表現は表現」として、いろんな意見があっても良いと思っています。
だからこそ、今回はHSPの方に向けてそれぞれ異なる立場から活動をする方々に対談を実施し、「みんなの見えないところで色んな人が色んなことを考えている」ということを見せたかったんです。
第1回目は、上戸えりなさんとの対談を踏まえ、バイアスの観点から「HSPブームの問題点」を考察しました。
【連続対談企画#1】HSPブームを受けて上戸えりなさんは何を思う?
第2回目は、ばっしーさんとの対談を踏まえ、人とのつながりやお金の流れの観点から「HSPブームの問題点」を考察しました。
【連続対談企画#2】HSPブームを受けてばっしーさんは何を思う?
第3回目は、みさきじゅりさんとの対談を踏まえ、キャリアや支援の観点から「HSPブームの問題点」を考察しました。
【連続対談企画#3】HSPブームを受けてみさきじゅりさんは何を思う?
そして、最後となる今回は、おがたちえさんとの対談を踏まえ、表現の観点から「HSPブームの問題点」を考察しました。
私は一人でやっていることもあり、今回はある意味一大プロジェクトとなりましたが、すべての記事を通じて、皆さんが思っていても言えないことをすべて形にできたのではないかと思っています。
改めて、今回の対談にご協力いただいた皆さんに、この場をもって感謝いたします。
また、それぞれの記事をご覧になってくださった方やSNS等でシェアいただいた方にも、この場をもって感謝いたします。
ありがとうございました!
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