【連続対談企画#1】HSPブームを受けて上戸えりなさんは何を思う?

HSPとは、繊細で敏感な気質ということで、生きづらいという文脈で言葉が広がっていきました。
そして、1年前~半年前くらいに、テレビや芸能人がHSPを取り上げるようになり、HSPの知名度がかなり高まりました。
この状況を「HSPブーム」と揶揄する人も現れるようになりました。
この「HSPブーム」に対しては、HSPについて誤った認識が広がるなど負の面も見られるようになり、SNSを中心に問題視される声も多数あがりました。
そこでこの度は、この「HSPブーム」をテーマに複数の方々と対談をすることとしました。
一回目の対談は、上戸えりなさんがお相手です。
上戸えりなさんとの対談を踏まえ、人間が持つ偏見(バイアス)から、「HSPブームの問題点」について考察した内容を記事にまとめました。
「HSP」ブームをテーマに対談を実施することに至ったきっかけや趣旨については、以前の記事にまとめていますので、こちらも併せてご覧いただければと思います。
【連続対談企画 始めます】HSPブームを受けて発信者たちは何を思う?
この記事の目次
対談のお相手(上戸えりなさん)
・私よりもずっと前からHSPについて発信されてきた方です。HSPという気質にとらわれずにその人が自立した人生を楽しめるようなヒントを一貫して発信し続けています。
・ここ最近はご自身の経験なども踏まえ、HSPの気質を持つママ向けに楽しく子育てをするための情報も発信されています。上戸えりなさんは、著書『HSPの教科書』が話題になりましたが、近日中にHSPママ向けの著書も出版されるそうです(マンガ形式でわかりやすいそうです)!
・著書・ブログ・Twitterで感じる印象以上に、本当に裏表のない方で非常にお話しやすい方です。以前に、「HSPの生きづらさ」をテーマに対談したことがあり、こちらも有益なお話をたくさんお聞きできたので、ぜひ以下のリンクから以前の対談もご覧いただければと思います。
【HSP対談vol.11】HSPの生きづらさを乗り越えるには?(上戸えりなさんとの以前の対談)
上戸えりなさんのTwitter→こちら 上戸えりなさんのInstagram→こちら |
スポンサーリンク
対談内容のまとめ
(1)HSPの発信者によるスタンスの違い
上戸えりなさんは、長らくHSPの方々に向けて発信を続けてきた方ですので、まずは昨今のHSPブームについて単刀直入に伺ってみました。
ぽん乃助「ここ最近、メディアでHSPが取り上げられ、「HSPブーム」と言われるくらい流行りましたが、何か変化を感じたことがありましたか?」
私自身もここ最近は、HSPの方々に向けて発信する人たちの変化を感じるようになりました。
以前は「HSPの人たちのために」というスタンスで発信する人が多かった一方で、今は「HSPに関する先生になろう」というスタンスで発信する人も見受けられるようになりました。
言葉は悪いですが、意図的に「HSPという言葉を使って自分を神格化しよう」という印象を受ける人も多くなりました。
これは、HSPという言葉を使うことで、SNSなどで他人から注目されるようになったからだと思っています。
ただ、人間は誰しも偏見が多いなので、自分が有名になると「自分の意見が正しい」という感覚を持ちやすくなります。
そして、その情報を見る人も、「人気な人の意見は正しい」と感じやすくなります。
劣勢である者たちが劣勢だと自覚することで沈黙し、優勢である者たちの声が大きくなった結果、ますます劣勢の者たちの声が小さくなるという沈黙の螺旋理論が提唱されている(Noelle-Neumann, 1993, 池田 他〈訳〉, 2013)。
引用:情報文化研究所(2021)『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社
こうした人間のバイアスも踏まえ、自分を神格化して情報発信する人を見ていると誤った知識の流布につながるように思います。
また、HSPの方々に向けた発信ではメンタルヘルスに関する情報が多い中で、神格化した人が現れると「その人についていこう」という依存状態が発生する可能性があります。
メンタルヘルスにおいては「自立」を基軸に置くのが基本ですので、こうした神格化した人による発信を見ていると、逆に「自立」から遠ざかってしまうという危なさが潜んでいるように感じています。
ここ最近は心理学者自身がHSPについて、SNSで発信する流れが見受けられるようになりました。
ここについて、上戸えりなさんにさらに聞いてみました。
私はInstagramをやっていなかったので実情を知らなかったのですが、上戸えりなさんのお話を聞き実際に見てみたら、過剰に「HSP=〇〇」と断定するような情報が人気を得ていたことに驚きました。
「スリーパー効果」といって、人間は信頼性が置けない情報でも時間が経つと真実に思えてしまう偏見を持っていますので、(その気がなくても)SNSの情報を妄信するのは危険だったりします。
情報源の信頼性が高いほど意見変容が起きやすく、また信頼性が低いほど起きにくいという、誰もが予測できる結果であった。しかし、4 週間後はそれらの差が消失していることがわかる。
言い換えれば、当初は読み手が信頼できない情報であると判断していたにもかかわらず、時間の経過とともに説得される傾向がうかがえる。
引用:情報文化研究所(2021)『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社
ただ、学術的に正しくない情報を発信しているということで、学術界からは発信者に対して批判の声があがるようになりましたが、私自身が発信者ということもあり発信者の立場から考えてみると、「できる限りミスリードを起こさない(間違った情報を伝えない)ようにしよう」ということを考えている人が大半だと思っています。
この状況をきっかけに、HSPの方々に向けて発信をやめてしまった人も増えましたが、きっと発信によって心の悩みの改善につながった人もいると思いますし、HSPの方々に向けた発信自体は批判されるべきではないと思っています。
ただ、今は「HSPの発信者」という括りで、全員が同じように胡散臭く見られてしまっているのではないかと思っています。
なので、今回の一連の対談では、発信者としての葛藤をお伝えすることができればと思い、企画しました。
まさに、今回のお話を通じて、上戸えりなさんが「HSPブーム」に対して持っている違和感に、私も非常に近いものを感じました。
(2)HSPの捉え方は人によってかなり差がある
上戸えりなさんと私の共通見解としているのは、HSPについて発信している目的として、「自分のことをより深く知って、自分の生活を高めていくこと」にあります。
ただ、Twitterを見ていると、HSPである自分を被害者的な立場としてネガティブなツイートをしている人もいるのは確かです。
HSPは精神疾患のような病的傾向を示す言葉ではありませんので、自分がHSPであることを強く主張したとしても、薬で治療できるものでもありませんし、そもそも治すものでもありません。
私自身、うつ病だったときに、誰かに助けてほしいと思ってネガティブなことをたくさん言っていたことがあったのですが、逆にどんどん人が離れていくという経験をしています。
こうした経験もあって、自分を「被害者」という立場に見られるためにHSPを主張するのは逆に孤立していくことにもつながってしまうのではないかと、私は感じました。
上戸えりなさんとお話をしていて、改めてSNSでの情報収集や情報発信は難しいな…と思いました。
最近は、インターネットでは情報が多すぎるため、SNSや動画サイトなどでは自分の好みの情報がAIに判断されて、トップページ上に表示されやすいプログラムが組まれています。
これに伴い、SNSでは「エコーチェンバー現象」ということが、問題点のひとつとして挙げられることがあります。
「エコーチェンバー」とは、ソーシャルメディアを利用する際、自分と似た興味関心をもつユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象にたとえたものである。
サンスティーン(2001)は、集団分極化はインターネット上で発生しており、インターネットには個人や集団が様々な選択をする際に、多くの人々を自作のエコーチェンバーに閉じ込めてしまうシステムが存在するとしたうえで、過激な意見に繰り返し触れる一方で、多数の人が同じ意見を支持していると聞かされれば、信じ込む人が出てくると指摘した。
引用:総務省『インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの』(アクセス日:2021年5月2日)
また、人間の偏見として「確証バイアス」が挙げられ、自分の意見と賛成するものばかりみてしまい、自分の意見に反するものはあまり見れなくなってしまう傾向があります。
自分の考えや仮説が「正しいこと」を確認するために、仮説に合致するような情報のみを集めてしまいがちである。 裏返せば、仮説に反する情報を集めようとしない、 あるいは無視してしまう。このような傾向は確証バイアスと呼ばれる。
引用:情報文化研究所(2021)『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社
上戸えりなさんが仰っていた『白か黒か』という思考は、心理学的には認知の歪みの一つとも言われ、メンタル的には良くない思考のクセの一つです。
SNSでこの『白か黒か』という思考が起きやすくなってしまうのにはこうしたメカニズムが背景にあり、今のSNSにおけるHSP界隈においてもこうした傾向がみられるから、違和感があるんじゃないかと私は感じます。
(3)HSPブームはなぜ問題になったのか?
上戸えりなさんとこのようなお話していて思ったのは、HSPブームが問題になった理由として、HSPの定義が曖昧のまま便利な言葉として使っている人が多かったことにもあるかもしれないなと思いました。
たしかに「気にする」という言葉一つとっても、「自分を気にしているのか?」もしくは「相手を気にしているのか?」で、意味は全然違ってきます。
人間には、定義が曖昧な言葉を使うと、意見のすれ違いなどが起きやすくなるという「ソリテス・パラドックス」という現象があります。
意味が曖昧な語に明らかに正しい議論を適用することでパラドックスが生じてしまうのである。
(中略)
自分が用いているその語がどの範囲を指すのか、周囲とその範囲について了解がとれているのかどうかを確認することで、無駄な衝突を避けることが可能になる。
引用:情報文化研究所(2021)『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社
HSPブームで問題視された理由の背景には、こうしたことも考えられるのではないかと感じました。
上戸えりなさんは、以前の対談でも仰っていましたが、「上戸えりなの発信を必要だと思わない」人が増えればよいと仰っていましたが、まさにこの感覚が発信者に求められる一つのスタンスなんじゃないかと思っています。
前述のとおり、HSPに限らず、メンタルヘルスの観点で非常に重要な価値観は「自立」を目指すことです。
逆に言えば、情報を見ている人が「この人の発信がなければ生きていけない」という感覚になれば、それは「自立」ではなく「依存」を引き起こしていることになります。
発信者に限らず、医師や学者の立場であっても、「自立」を促すということの基本に立ち戻ることがすごく大事なんじゃないかと思いました。
そして、私自身も改めてこうしたスタンスを考えつつ、発信活動などをしていかなければならないと思いました。
(4)これからのHSPに関する発信について
前述のとおり、今のHSP界隈では「先生」のようなポジションを名乗る人が増えた気がします。
以前、Twitterで私はこんなツイートをしました。
SNSのメンタル界隈で違和感があるのは、『先生的ポジション』を名乗っている人が多いこと。本来、悩んでいる人に対してのあるべき姿は、『相手も自分も対等』であること。「目線を合わせていてやっている感」を醸す人は、すごくイヤだ。必要なのは同情じゃなくて、共感。私は自分を神格化したくない。
— ぽん乃助@繊細な人の働き方戦略家/ブロガー (@suke_of_pon) April 18, 2021
私もHSP自体の注目度が去れば、「先生」というポジションを名乗りづらくなるので、いずれ発信者も減っていくような気がしています。
私はメンタル界隈において大事なのは、「相手と自分は同じ立場」という感覚が大事なんじゃないかと思っています。
なんで「先生」を名乗りたい人が多いかと考えたときに、私は「ノーブレスオブリージュ(ノブレスオブリージュ)」の感覚が美徳だと思っている人が多いからではないかと思っています。
《「ノブレスオブリージュ」とも》身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。もとはフランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」の意。身分の高い者はそれに応じて果たさねばならぬ社会的責任と義務があるという、欧米社会における基本的な道徳観。もとはフランスのことわざで「貴族たるもの、身分にふさわしい振る舞いをしなければならぬ」の意。
引用:コトバンク『ノーブレスオブリージュ』(アクセス日:2021年5月2日)
実は、私はこの「ノーブレスオブリージュ」の価値観が好きではありません。
これは人によって価値観が変わる部分もあるので、色んな意見があっても良いと思っています。
ただ、「立場が強い人が弱い人に対して助けなきゃいけない“義務”」だと感じて人と接すると、どうしても「目線を合わせていてやっている感」が生まれてしまうんじゃないかと思います。
メンタルヘルスの領域では「相手の気持ちに共感する」ということが基本中の基本と言われている中で、この価値観は「相手に共感する」ことから妨げてしまうんじゃないかと私は思います。
HSPの問題性について、「バーナム効果」から語られることがあります。
あいまいな性格に関する記述を目にしたとき、人は 自分に当てはまっているととらえてしまう傾向があるということが発見され、バーナム効果と命名された(Meehl, 1956)。
(中略)
占いが当たるかどうかは、占いを受け取った側の解釈に依存している。「あなたはこういう人です」と示された内容に合致する部分を、人は後付けで自分の中から探し出してしまう。
(中略)
バーナム効果というものがあるということ、そして人は簡単にバーナム効果の影響を受けるということ。この2つを覚えていることは、理不尽に自己肯定感が低下することを防止してくれる。
引用:情報文化研究所(2021)『情報を正しく選択するための認知バイアス事典』フォレスト出版株式会社
上戸えりなさんから、「占い」の話も踏まえ「誰かに自分を決めてほしい」という欲求が、HSPにも潜んでいるのではないかというお話が挙がりました。
この話はまさに、人間の偏見の一つである「バーナム効果」が関わっていることなのではないかと思います。
メンタルヘルスの領域で言われている「自立」というのは、究極的に言えば、「自分で決める」ということが到達点なのかもしれません。
だからこそ、上戸えりなさんが仰っていた「自分で決める」というのは、HSPの人が幸せな生活を送っていく意味で非常に重要な観点だと私は思いました。
また、上戸えりなさんは今後のご活動として、自分自身の子育ての経験を踏まえながら、HSPの気質を持つママ向けに楽しく子育てをしていくためのヒントについての発信活動などをされていくとのことでした。
Twitterを見ていると、HSPの方々が子育てに悩んでいる様子を見ることがよくあるので、非常に有用な発信になっていくのではないかと思います。
近日中では、HSPのママ向けに漫画でわかりやすい著書をご出版するようですので、ぜひともそちらもチェックいただければと思います!
スポンサーリンク
おわりに
まずは今回、対談企画にご協力いただいた上戸えりなさんにこの場をもって感謝申し上げたいと思います。
貴重な時間を本当にありがとうございました。
今回は、上戸えりなさんとの対談を踏まえ、『偏見』という観点から「HSPブームの問題点」について考察してきました。
また、上戸えりなさんとお話をしていて、こうしたメンタル界隈での活動においては基本中の基本ではあるものの、「自立」と「共感」は改めて大事にしなければいけない価値観だと感じました。
今回の対談を通じて、「自分で決める」という上戸えりなさんの言葉は非常に印象に残っており、今悩んでいるHSPの方々にとっても非常に大事にすると良い考え方なのではないかと思いました。
さて、次回の対談は、HSPコミュニティを運営されているばっしーさんをお相手に対談していきます。
次回は、「HSPブームの問題点」について、違う観点から考えていきたいと思います。
ぜひ、楽しみにしていただければと思います!
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。