【連続対談企画#3】HSPブームを受けてみさきじゅりさんは何を思う?
HSPとは、繊細で敏感な気質ということで、生きづらいという文脈で言葉が広がっていきました。
そして、1年前~半年前くらいに、テレビや芸能人がHSPを取り上げるようになり、HSPの知名度がかなり高まりました。
この状況を「HSPブーム」と揶揄する人も現れるようになりました。
この「HSPブーム」に対しては、HSPについて誤った認識が広がるなど負の面も見られるようになり、SNSを中心に問題視される声も多数あがりました。
そこでこの度は、この「HSPブーム」をテーマに複数の方々と対談をすることとしました。(前回の対談は、以下のリンクをご参照ください。)
【連続対談企画#2】HSPブームを受けてばっしーさんは何を思う?
3回目の対談は、みさきじゅりさんがお相手です。
みさきじゅりさんとの対談を踏まえ、キャリアと支援の観点から、「HSPブームの問題点」について考察した内容を記事にまとめました。
「HSP」ブームをテーマに対談を実施することに至ったきっかけや趣旨については、以前の記事にまとめていますので、こちらも併せてご覧いただければと思います。
【連続対談企画 始めます】HSPブームを受けて発信者たちは何を思う?
対談のお相手(みさきじゅりさん)
・みさきじゅりさんは、HSPの方に向けてキャリアコンサルティングを長い期間にわたり実施されており、多くの方の仕事の相談を受けています。
・また、HSPの提唱者であるアーロン博士の初のHSP専門家プログラムの修了者であり、HSPの方々に向けて発信活動も続けています。
・みさきじゅりさんとは一度対談したこともあり、2度目の今回の対談も盛り上がって、長時間お話しさせていただきました!以前の対談の模様は、以下のリンクからご覧ください。
【HSP対談vol.4】HSPの適職と働きやすい職場を見抜く方法(前回のみさきじゅりさんとの対談)
みさきじゅりさんのTwitter→こちら みさきじゅりさんのYouTubeチャンネル→こちら |
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対談内容のまとめ
(1)HSPブームで変わったこと
私は、ちょうど2年半前からこのブログ活動を始めたので、以前にもこうした問題が取り上げられていたということは初めて知りました。
ただ、世の中にはHSPに限らず、いろんな言葉が実際の意味と異なり広がっていくことはよくあります。
なので、そこまでHSPの認知度が高くなかった当時においては、そこまで問題視の声が挙がらなかった(問題視する必要がなかった)ということが言えるのではないでしょうか。
つまりは、元々から一般の人に広がるHSPの定義の誤りといった問題は所在しており、「HSPブーム」を経て新たに問題が生まれたわけではなく、「HSPブーム」を経て問題視されたということが言えるのではないかと思います。
みさきじゅりさんは、キャリア相談の場において、相手の気質のみならず、今置かれている環境や育ってきた環境を勘案して、キャリアを一緒に考えていくスタンスを取られているということでした。
これは、みさきじゅりさん自身のご経験としても言えることであるのだと思いますが、学術的にも人の性格が形作られるにあたっては、生まれつきの部分のみならず、生育環境も大きな要因となってきます。
行動遺伝学では性格の遺伝率はおよそ40%と考えていますが,これもこのようなたくさんの遺伝子の働きが全体として性格に与える影響が40%だというだけのことで,「性格の40%を決定する遺伝子がある」というような話ではありません。それだけでなく,遺伝の影響は性格の側面や性格特性によっても異なり,神経質や不安の傾向など,気質とよばれる側面では遺伝率が60%を超える特性がある一方で,対人関係や政治への興味,趣味嗜好などの側面では遺伝率は20%かそれ以下にすぎない場合もあります。
そうした生まれつきの20~60%が,生まれてからは残り40~80%の環境と,これもまた複雑に絡み合いながら性格を決めていきます。性格はたしかに遺伝の影響を大きく受けますが,かといって生まれつきだけで人の性格が決まったり,予測できたりするわけではないのです。
引用:サトウタツヤ・渡邊芳之(2019)『心理学・入門(改訂版)』有斐閣アルマ
そして、HSPについても一般的には「生まれつきの気質」といわれることが多いですが、近年の学術界においては異なった見解が示されています。
親がHSPであれば、子どももHSCになる?
環境感受性は遺伝的な要因によっても形成されますが、すべてがそれで決まるわけではありません。最新の研究では、環境感受性の気質的側面である感覚処理感受性は、約47%が遺伝で説明されることが報告されています(Assary et al., 2020)。残りの約50%は、生育環境によって決まるといえます。したがって、親がHSPでも、その子どもがHSCになるとは限りません。
引用:Japan Sensitivity Research『Q&A About Sensitivity』(アクセス日:2021年5月6日)
そして、みさきじゅりさんのお話を伺っていて、世の中で思われている以上に「支援」のお仕事は難しいものだと改めて実感しました。
学術的には「●●した方が好ましい」ということまでは考慮できるものの、みさきじゅりさんが携わっているような支援の現場ではすべて学術的知識だけでは解決できない問題も生じてきて、学術的知識を超える部分(確証がない場面)での判断も問われるケースもあるように感じました。
一般的には、支援業においては100%うまくいくということはありませんし、失敗した際には支援者に大きな責任(賠償責任など)が課される場合もあります。
「HSPという看板を掲げているカウンセラーは怪しい」といった文脈でのSNSの投稿を見ることもありますが、こうしたことを踏まえると、きちんと学術性を重んじている支援者も非常に多い(≒学術性を重んじていない支援者は少ない)のではないかと私は思いました。
「HSPの人は生きづらい」という考え方は、一般的に広まっているものの、学術的には不正確です。
「HSP=生きづらい人」というのは不正確な見方です。HSPは「生きづらさ」のラベルではありません。もし「生きづらさ」が強く、日常生活に大きな支障をきたすようであれば、うつ病や不安障害などの傾向がないか、発達障がい(ADHD・自閉スペクトラム症など)の傾向がないか、をまずは調べたほうがよいと思われます。そのうえで、どのような環境調整をすれば「生きづらさ」が改善するのかを考えましょう。「生きづらさ」にHSPという名前がつくことで一時的な安心感が得られるかもしれませんが、より大切なのは気質を踏まえた環境の調整(周囲の人からのサポートも含む)です。
引用:Japan Sensitivity Research『Media & Evidence』(アクセス日:2021年5月6日)
ただし、Googleの検索傾向を調べてみると、HSPという言葉と一緒に、悩みや生きづらさに関するワードが検索されており、「生きづらい人がHSPだと主張する」ということは否定できません。
なので私は、HSPという言葉を切り口に、人々が抱える悩みに向けてアプローチする活動自体は、否定されるべきものではないと考えています。
そして、みさきじゅりさんとのお話を踏まえ、HSPの正しい知識を広めると同時に、「自分がHSPだ」と気づいた安心感に留めるのみならず、自分の足で生きづらさから抜け出すためのヒントを促すことが重要なのではないかと思いました。
(2)HSPと仕事について
みさきじゅりさんのお話を伺っていて、仕事に悩んでいる人は、「不安が大きいけど、私はどうすればいいかわからない!」という人が多いように感じました。
ただ、私自身もサラーリマンとして毎日仕事が続く中で、冷静に自分のキャリアを考える時間というのはあまり取れていません。
内閣府は、OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較データ(15~64歳の男女を対象)を踏まえ、日本の労働に対して以下の見解を示しています。
結婚や子供の有無を区別しない15~64歳の男女全体で見ると,我が国は諸外国と比較した場合、
・以前は短かった女性の有償労働時間が伸び,男性も女性も有償労働時間が長いが,特に男性の有償労働時間は極端に長い。
・無償労働が女性に偏るという傾向が極端に強い。
・男女とも有償・無償をあわせた総労働時間が長く,時間的にはすでに限界まで「労働」している。
引用:内閣府 男女共同参画局『生活時間の国際比較』(アクセス日:2021年5月6日)
仕事の悩みをきっかけに「自分がHSPだ」と気づいた人が多いのも、そもそも冷静に自分のキャリアを考える時間がとれないという日本の社会背景が相まっている可能性もあると感じました。
私自身も、みさきじゅりさんのお話をお伺いしていて、キャリアの考え方について大変勉強になりました。
厚生労働省の平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」では、強いストレスに悩む人が日本全体として非常に多いことが分かっています。
現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 58.0%[平成 29 年調査 58.3%]となっている。
引用:厚生労働省 平成30年「労働安全衛生調査(実態調査)」
ただ、こうした背景がある中で、(転職を含めて)あまりキャリアを大っぴらに相談する機会はあまりなく、自分一人で悩みを抱え込んでしまっている人も多いように思います。
だからこそ、みさきじゅりさんのように、支援者がキャリアに関して考える機会を提供しているというのは非常に社会的にも有意義なのではないかと私は思います。
先述のとおり、Googleの検索傾向を踏まえると、「自分がHSPだ」と思う人は仕事で悩んでいる可能性が高く、こうした問題にアプローチするにあたっては、HSPの正しい見識を広げるのみならず、キャリアに関する見識や相談の場が広がっていくことが大事なのではないかと、私は思いました。
(3)HSPのこれから
近年、厚生労働省でも副業・兼業に対するガイドラインを示すなど、国としても副業・兼業を勧めていく方針を示しています。
日本は年功序列企業が多い中、これまでは『安定』という言葉のもと転職はあまりせずに同じ企業で勤め上げるということがモデルケースであったものの、既にコロナ禍で倒産する企業やリストラされる労働者が表出しており、『安定』に対する神話が状況が崩れだしていることが分かります。
また、一定以上の年齢の人が職を失うと、特異なスキルや人脈がなければ次の職が見つかりづらいという現状もあります。
だからこそ、人生の保険という意味でも、副業・兼業は有効なのかもしれません。
仕事に悩むHSPの人の立場においても、「合わない仕事をし続けなければいけない」というリスクを潰す意味でも、副業・兼業に挑戦してみるというのも一つの手法なのかもしれません。
今回、連続対談企画をしていて、「自分がHSPだ」という気づきをきっかけに悩んでいる方々の人生をプラスに持っていきたいという気持ちは、HSPの方々に向けた活動者たちに共通している意識だと思いました。
その一方で、HSPという言葉を使って悪徳商法やカルト勧誘なども行うケースも出てきましたし、ごく一部の医師等の臨床家が「うつ」と「HSP」を結び付ける誤った見解を示すケースも出てきました。
こうした現状がある中で、私はHSPの活動者の一人として、HSPの正しい見識はきちんと広げていきながらも、そこにプラスな意味(自分の足で人生を良い方向に持っていこうという意識)が伴うようにしていきたいと、みさきじゅりさんとの対談を通じて改めて感じました。
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おわりに
まずは今回、対談企画にご協力いただいたみさきじゅりさんにこの場をもって感謝申し上げたいと思います。
貴重な時間を本当にありがとうございました。
今回は、みさきじゅりさんとの対談を踏まえ、キャリアや支援の観点から「HSPブームの問題点」について考察してきました。
さて、次回の対談で、今回の連続対談企画は最後となります。
次回は、HSP漫画家のおがたちえさんをお相手に対談していきます。
次回は、「HSPブームの問題点」について、異なる観点から考えていきたいと思います。
ぜひ、楽しみにしていただければと思います!
コメント
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一度しかない人生で2度以上のキャリアは当たり前の時代になって来ましたね。これは寿命が100歳と伸びたことと、自由に転職できることが当たり前になってきたことだ思います。
普通の人でも今では80歳くらいまで働けるように癌でも、パーキンソン病、老人認知症でもアルツハイマーでも治るようになり、さらに中山教授のお陰で再生医療までできるようになりました。
長期労働では自分のメンタルが強い、肯定的な場合は自身が全く苦痛とは感じていませんし、逆に興味があるものに対してはもっともっと挑戦したくなります。今でもアドレナリンがどんどん出てきます。これは誰にでも同じだと考えています。
問題はいろいろなHSPでも気の弱い人、Negativeな人にもPositive thinking 及び未来へのVisionaryな夢をかんがえるひとがMentorとして増えるような社会にしたいです。これは全く普通の人にも言えることでおっしゃるようにそのような事を今まで考える習慣が無かったのです。人生一回ですが、キャリアは2度以上可能になりました。
サムエルウルマン(アメリカ詩人 Youth)が言うように、人は歳で生きているのではなくその人の気持ちの持ちようで生きるのだという事がとても好きです。
日本の世の中もこのコロナCOVIT-19の間に人生の幸せとは、Well Beingの何かを模索し始めたと思います。同じことをブログにも書いていますが、どんな人にも平等な生活が出来るような世の中にしたいです。 さもないと日本は100歳以上が既に7万人を超えています。老人ホーム国にならないように珠莉さんみたいな方がドンドント皆を元気づけてください。もちろん私もやって居ます。78歳になって気が付いたことは気持ちは明るいですが、筋肉の衰えが来ると転びます。この頭と肉体とのバランスをとるのが必要ですね。頭は年をとってもどんどんと進化しますが、肉体はすぐ便利な方向に行って昔4足であったにもかかわらず2足も使わなくなりました。これは便利というか人間の退化です。バランスよくなることを維持することが大切だということが今頃になって身に染みています。ありがとうございます。
深いご経験とご見識にもとづくコメントをいただきまして、ありがとうございました。
私自身(本ブログの執筆者:ぽん乃助)自身も、キャリアや仕事を抜きに、真向きに生きるための社会を構築することは難しいと考えています。
また、仕事を悩んでいても結局一人で抱え込んでしまい、ズルズルとそのまま生きている人も多い気がしています。
なので、杉井様が掲げるメンター(≒相談できる人)が増える社会は、非常に尊いと感じます。
本コメントは、みさきじゅりさんにもお伝えしたいと思います。
改めて、コメントをありがとうございました。