先日、発達障害と就労支援をテーマにTwitterのスペースで対談した内容を踏まえて考えたことをお伝えします。
仕事や生活の支障につながる「発達障害」について、最近は知名度がかなり上がりました。
ただ、実際に職場でどのような困りごとが発生して、どのようなサポートが必要なのかという点について、知らない方が非常に多いのではないでしょうか。
今回は、発達障害者支援センターで働く相談実績2000名以上の貫井まなぶさんに、「発達障害と就労支援」をテーマに色々とお伺いした内容を踏まえ、大人の発達障害の方が働きやすくなるためのヒントや周囲の方のサポートのあり方について、まとめていきたいと思います。
【画像をクリックすると、貫井まなぶさんのTwitterにリンクします。】
大人の発達障害と就労支援について
(1)発達障害の概況
貫井さんは、どのような形で発達障害の方への就労支援に携わっているのですか?
発達障害者支援センターに所属して、「相談員」と「講師」という形で発達障害の方への就労支援に携わっています。
発達障害の方って、どれくらいいらっしゃるのですか?
正確な統計はありません。ただ、文部科学省の調査(2012年)文部科学省の調査(2012年)によると、公立小中学校の通常学級でも6.5%の児童や生徒に発達障害の可能性があるとされています。 そうすると、かなり発達障害を抱える方が多いことになりますよね?
はい。なので、最近はキャリアコンサルタント(国家試験)の講師もはじめました。一人でも多く、発達障害について理解し、就労支援ができる仲間を増やせればと思っています。
(2)発達障害の生きづらさ
発達障害は大人になってから気づくケースが多いと言われまよね?
はい。学生の頃は大人のサポートがあるので、発達障害に気づかずにやり過ごせることが多いのですが、社会に出てから支障が生まれてしまい、自分が発達障害だと気づくケースが多いのではないかと考えられます。
発達障害については、以前よりも理解が広がったと思います。その一方で、実際のところ、当事者の周囲の方々が心から発達障害を理解するのは、難しいのではないかと思っています。
そうですね。あくまで体感ですが、相談にいらっしゃる発達障害の方の中には、親が理解してくれないという問題を抱えている人が多いように思います。年長の世代では、「困難は頑張って乗り越えなきゃいけない」という価値観を持つ方が多いからこそ、困難を乗り越えられない人に対して「甘えだ」とか「努力不足だ」と思ってしまうのかもしれません。
家族などの一番近くの人が理解してくれないというのは一番つらいですよね。
そうですね。なので、支援の一つとして、発達障害のご家族の方と面談することもあります。
(3)弱さよりも強さに目を向けること
私は生活に大きな支障はなかったものの、暗算がとてつもなく苦手で、奥さんに指摘されたことがありました。小学生の計算ドリルで訓練をしたものの、苦手からなかなか抜け出すことができませんでした。暗算を求められると、どうしても頭がパニックになってしまうんですよね。
実はそんなこともあり自信を失っていたときに、私はドラッカーの本を読みました。そこで、『自らの強みに集中せよ』という言葉に衝撃が走りました。今までは自分の弱さを改善することに目を向けていたので、強みに集中するということは、目から鱗だったんですよね。
私は英語が得意だったんです。英語の得意を生かすために、アメリカへ留学に行くことにしました。留学に行くためにはTOEFLの試験で一定の点数を取る必要があるのですが、暗算とは違って努力することで点数が伸びて、楽しさもあったんですよね。これが成功体験になって、自信につながったのです。
これが今の支援の考え方にもつながっているのですか?
はい。発達障害の方には、自信を失っている人も多々いらっしゃいます。なので、強みに目を向けるということは、支援においても大切にしています。
(4)発達障害への理解の広がり
最近は、発達障害についての理解が広まったように思います。貫井さんからみて、どう思われますか。
以前に比べて、すごく広まったと思います。10年前に転職エージェントをやっていたときは、『障害=身体障害』の認識が強い会社が多く、精神障害への理解がある会社は少ない印象でした。また、当時は発達障害について、会社の人事の方であっても、誤った理解をお持ちの方が非常に多かった印象にあります。
そうすると、今はだいぶ理解が広がってきた状態にあるんですね。
そうですね。ただ、今も問題はあります。発達障害の知識は広がってきた状態ではありますが、理解しようとする人がいる反面、差別的な悪口として使う人もいます。特に企業の人事の方が、正しい知識を持てる人が増えないと、発達障害の方が安心して働ける場所が少なくなります。なので、発達障害の正しい理解は、私からも促していきたいと思っています。
(5)発達障害の方への就労支援のアプローチ
貫井さんは発達障害(ASD・ADHDなど)の特性を踏まえたうえで、発達障害の方への就労支援を行う重要性を仰っていますが、具体的にはどのようにアプローチを行なっているのですか。
例えば、私が相談に乗ったADHDの方で、今は生命保険の営業のトップの方がいらっしゃいます。ADHDの方はケアレスミスが多いのですが、職場の理解があってケアレスミスの部分のカバーがあれば、能力を発揮できる場合があります。なので、発達障害の特性を踏まえてどのようにアプローチするのかを、相談者とお話しを踏まえて考えていきます。
特性を踏まえて、支援する大切さがよくわかりました。ただ、実際には一人ひとり個性や趣向は違うので、発達障害の特性だけを考えても、必ずしも支援がうまくいかない場合もある気がします。こうした点で、就労支援が難しいと感じるときはありますか。
発達障害の特性だけでなく、相談相手の個別性を考えることは、とても大事だと思っています。例えば、ASDの方はコミュニケーションが苦手な傾向にあるので、営業や接客のお仕事は一般的に向いていないと言われます。ただ、ASDの特性である「こだわりが強い」という面が功を奏して、特定の分野に造詣が非常に深く、営業や接客がうまくいくケースもあります。しかし、発達障害の方とたくさん相談する中で、特定の仕事がうまくいかずに辞めやすいという一定のパターンがあるので、『発達障害の特性』と『相談相手の個別性』をどのようにバランスをとって就労支援をするのかという点は、支援者の多くが悩む点なのではないでしょうか。
とても勉強になります。他にも、就労支援のアプローチで大切な点はありますか。
そうですね…例えば、最初は「仕事の相談」だったとしても、お話を聞いていると悩みの根源が『小さい頃の自身の喪失』や『親子関係』などに行き着くもあります。なので、相談を受けるときは、「相手が本当に悩んでいる点は何か?」ということを意識するようにしています。
(6)発達障害の病院への相談
SNSなどを見ていると、「発達障害かもしれない」と悩んでいるけど、どの病院に行ったらいいかわからないと思っている人も多い気がします。
各地に公的な発達障害者の支援センターがあるので、そこで発達障害を診てもらえる病院リストを紹介してもらうことも考えられます。
支援センターでは、そうした支援も行う場合もあるのですね。
実際に発達障害は自分自身で気づける場合もありますが、実際には自分自身では気づけない場合もあります。なので、仕事や生活での困難の理由がわからずに苦しんでいる方も多くいらっしゃると思います。なので、周囲の方が「この方は発達障害かもしれない」という気づきも大事だと思っています。
その意味でも、もっと発達障害の理解が適切に広まっていくといいですね。
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おわりに
さて、今回の記事はいかがでしたでしょうか。
貫井まなぶさんとは、産業カウンセラーの研修で同じクラスとなり、そのきっかけでTwitterのスペースでお話をいただく機会を得ることができました。
この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
発達障害を持つ方は正しい統計がないものの、「文部科学省の調査(2012年)文部科学省の調査(2012年)によると、公立小中学校の通常学級でも6.5%の児童や生徒に発達障害の可能性がある」と聞いて、発達障害の当事者のみならず、いろんな方々が理解を持った方が良いと改めて感じました。
それは、周囲が理解を得ることで、発達障害の生きづらさが軽減されるフィールドが増えると感じたからです。
特に、家族などの身近な人が発達障害を理解し、当事者の味方になれることが心強さにつながるのだと思いました。
もし、本記事を読んでいただいた中で、発達障害をもっと理解したいという方は、まずは厚生労働省が端的に情報をまとめているので、ぜひ以下のリンクから学んでみてはいかがでしょうか。
発達障害について(厚生労働省|みんなのメンタルヘルス)
また、貫井さんが仰っていた「弱さよりも強さに目を向けること」は、とても心が打たれました。
職場で苦手なことがたくさんあり仕事がうまくいかないことや、部下が何回も同じミスをしてしまって育成がうまくいかないことなど、こうした場面に直面する人はとても多いと思います。
また、こうした場面をなかなか打開できずに、自信が持てなくなっている人もたくさんいると思います。
それはもしかすると、「自分の弱さ」や「相手の弱さ」ばかりを見ているからなのかもしれません。
だからこそ、「弱さよりも強さに目を向けること」はどんな人であっても、とても大事な価値観だと思いました。
ということで、今回はこの辺で記事を終えたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回の記事でも、よろしくお願いします。
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