著書『転職学』から学ぶ! HSPの人が適職を求めるべきでない理由

HSPは繊細で敏感な気質を持つと言われます。(正確には、良くも悪くも環境の影響を受けやすい気質を指します。)
HSPのチェックリストは仕事の悩みに直結しやすい質問が多く、また、Googleの検索傾向を踏まえると、HSPの人は仕事で悩んでいる人が多いと考えられます。
さて、こうした背景から「HSPの適職」が紹介されることが多々あります。
それでは、HSPの人が適職を求めて転職などをすることが本当に合理的なのでしょうか?
今回は、著書『転職学』をもとに、この考え方の合理性を検証するとともに、「仕事が合わない」と思った場合の適切な転職の考え方をお伝えできればと思います。
「HSPの適職」の問題性
さて、「HSPの適職」として、例えば以下のとおり、サイトなどで紹介されていることがあります。
【一般的に挙げられるHSPの適職例】 ・人の心や体のケアをする仕事 ・動物や自然に関わる仕事 ・正確さが求められる仕事 ・技術職(特にIT・WEB系) ・クリエイティブ(創造的)な仕事 ・他者との交流が少ない仕事 |
ただ、ここには問題があります。
それは、本当にこうした適職に就けるのかという問題です。
冷静に考えてみると、「①過去の経歴(学歴・キャリア)に依存する業種」「②求人が少ない業種」「③実態は営業力が問われる業種」「④社内異動で同じ仕事をし続けられないリスク」などの問題から、上記の適職に就くというのは現実性に乏しいと考えられます。
あと、自分に合った業種で合ったとしても、人間関係や職場環境などが合わなければ、大きな苦痛になる可能性もあります。
こうした「HSPの適職」を紹介しているサイトをみると、キャリア論に詳しくない方が語っているケースが多いです。
さらには、「HSPの適職」を紹介しているブログなどをみると、私自身がブロガーだからこそわかりますが、転職サイトへのアフィリエイトにつなげていることが多々あります。
つまり、言葉は悪いですが、ブロガーなどが自身のお金儲けのために、「HSPの適職」というのを材料にして、転職サイトを紹介していることが多々あるというわけです。
そのため、「HSPの適職」は参考にするのはありかもしれませんが、そのまま鵜呑みにするのは危ないと考えられます。
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「自分に合っている仕事に転職する」が現実的でない理由
「HSPの適職」のみならず、世の中には「自分に合っている仕事に転職したい」という人が非常に多いです。
こうした心理的な背景をもとに、転職サイト等では「適職診断」というツールを設けていることもあります。
ただ、「自分に合っている仕事に転職する」という考え方自体が、最近ではあまり好ましくないと言われています。
立教大学経営学部の中原淳教授らが、転職について考察している著書『転職学』では、転職者のデータをもとに以下のことに言及されています。
「もっと自分にマッチングする職業があるはず」あるいは「もっと自分に向いている仕事があるはず」という「マッチング思考」に基づく転職には、限界があるということです。
(中略)
こうした「マッチング思考」には、あまり意識されていない「隠れた前提」があります。この思考で転職を成功させるためには、以下の五つの条件をすべて満たす必要があるのです。
①本人が、自分のことをよくわかっていること
②その自分は、すぐには変わらないこと
③本人が、入りたいと思う企業・仕事のことをよくわかっていること
④その企業・仕事は、すぐには変わらないこと
⑤その企業・仕事と自分が出会えること
(中略)
転職において世の中に存在しているすべての企業を選択肢として目の前に並べ、条件に完全に合致する企業を探し出すこと、マッチングを行なうことは不可能です。人の認識能力には限界があり、転職先の候補として選んだ企業の内部を隅々まで知ることもできません。転職というのは「限定合理性(限られた選択肢のなか、限られた判断資源のもとで物事を決めねばならないこと)」のもとで行なわれるものなのです。
引用:中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所(2021)『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』KADOKAWA
上記のとおり、「自分に合っている仕事に転職する」というのは、自分自身を正確に理解するのは難しく、転職先候補も限られた数の中で考えなければならないことなどの理由から、難しいと言うことがわかります。
こう考えると、HSPの人の中でも色々な経歴やパーソナリティの人がいる中で、「HSPの適職」というのがあてになるのかというと、なかなか難しいのではないかと私は思います。
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転職の満足度を高めるために
さて、それでは転職の満足度を高めるためには、どのような考え方を持てばいいのでしょうか?
著書『転職学』では、次のとおり書かれています。
「マッチング思考」を超えて「ラーニング思考」を自分の転職プロセスに採り入れることで、今後の転職プロセスを、豊かで充実したものにできるはずです。
(中略)
転職における「ラーニング思考」とは、「転職を通じ、学ぶことのなかで自らも変わっていく」という考え方です。
(中略)
転職とは、「自分に最適な場を探そうとすること」ではなく、「自分が場に最適に適応すること──すなわち新たに学び、変化する覚悟をもつこと」によってこそ、成功にたどり着けるものです。
引用:中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所(2021)『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』KADOKAWA
上記を踏まえると、「自分に合う仕事を探す」のではなく、「自分が変わっていき場に適応すること」が転職の考え方の鍵になるというわけです。
著書『転職学』では、転職中の考え方のあり方や転職後の心得を、データをもとに言及していますが、ここでは著書に紹介されていた転職中の考え方のあり方について、紹介したいと思います。
本著の調査では、不満を理由に転職を決めた人が約8割を占めることがわかっています。
転職した人の三〇・九%が「前職への不満のみ」、四八・九%が「前職への不満あり、転職先への魅力あり」を転職の理由として挙げた、という調査結果です。この二つを「不満ベースの転職」とすると、全体の七九・八%を占めることになります。
引用:中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所(2021)『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』KADOKAWA
おそらく、この記事を見ている人も、現職に不満を持っている人がいるのではないでしょうか。
ただ、著書では次のとおり、言及されています。
「転職後の幸福感」につながっていたのは、「社会的意義を感じられる仕事をしたい」(=ソーシャル)、「自分のスキルを向上させたい」(=チャレンジ)、「役職を上げたい」(=キャリア)という、次の職場と未来に向けた前向きな転職動機でした。
(中略)
転職でいえば、「不満ベース」の動機で転職しようとしている人の「ドミナント・ストーリー」を解放し、より前向きな動機で構成された「オルタナティブ・ストーリー」の構築へ向かわせることが、転職相談における「ナラティブ・アプローチ」の実践といえます。
(中略)
前向きな動機は、もともと自分のなかにあったものが出てくるというよりも、深い自己開示とともに「他者」に対して「語る」ことによって、つくり直されていくものです。
(中略)
転職相談とは、自分の悩みについての「正解」を求めるアクションではありません。他者は物語の転換を促す触媒のようなものであり、自分の外の視点に立ちつつ、自分のなかのことを深く語り直せるかどうかが大切になります。
引用:中原淳、小林祐児、パーソル総合研究所(2021)『働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは』KADOKAWA
そう、つまりは、不満をベースに転職する人が多いものの、転職後の満足度が高い人は前向きな転職動機を持っている人が多いということです。
ただ、著書にも言及がありますが、現職が不満があるからこそ、心身ともに負担の大きい「転職」という行動ができるわけです。
そこで、大事なのは、「不満をベースとした転職理由」から「次の職場と未来に向けた前向きな転職動機」に変えていくことです。
そして、後ろ向きな理由を前向きに変えていくためには、他者にキャリアについて相談したり、話してみたりすることが大事なのです。
おそらく、キャリア相談をする人の多くが、「自分に合った仕事は何か?」ということを知りたい人が多いことでしょう。
しかし、一番大事なのは、「自分のキャリア(転職理由など)を前向きに捉えられるようになる」ということを目的に、他者に相談することが大事だというわけです。
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おわりに
今回は、「HSPと適職」という切り口から、「仕事が合わない」と思った場合の適切な転職の考え方について、お伝えしてきました。
先日、こうした背景も踏まえ、HSPコミュニティ活動を積極的にされているばっしーさんとTwitterのスペースでお話ししました。
ここでお話ししたことについては、本ブログを通じて、後日レビューができればと思います。
そして、本記事で参考とさせていただいた、中原淳 教授らの著書『転職学』は、転職をする・しないに限らず、自分のキャリアを考えるにあたっては、ここ最近の中でも一番良書と言っても過言ではありません。
すべて、実際の転職者のデータをもとに分析した根拠をもとにわかりやすく執筆されており、本日この記事で紹介した内容は著書のほんの一部にすぎません。
なので、仕事に悩むHSPの人には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
ということで、今回はこの辺で終えたいと思います。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
また次回も、よろしくお願いいたします。
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