【対談】当事者同士で考えるうつ病の理解されづらい点について
社会では、精神疾患(特にうつ病)について、理解が広がってきています。
そんな中ではありますが、先日友人から、「うつ病になったパートナーのことを理解できない」ということを聞きました。
そのとき、知識としてはうつ病の理解が広がってきているものの、実態として身近にうつ病の人を前にすると、「理解をすることが難しい」と感じる人も多いのではないでしょうか。
私は、仕事の人間関係が原因でうつ病になったことがあり、今は寛解している身ではありますが、うつ病になったことがない人にとって理解するのは難しいだろうなと、客観的に感じることが多いです。
そこで今回は、「うつ病との向き合い方」というテーマで、当事者のきなここ。さんとTwitterのスペースでお話しして、うつ病の理解されづらい点だと感じたことを本記事で伝えていこうと思います。
【画像をクリックすると、きなここ。さんのTwitterにリンクします。】
うつ病の理解されづらい点
(1)うつ病の原因について
人はあらゆることに、因果を考えるような思考をします。
私はこうした思考は大事だと思いつつ、因果だけでは説明できないことがたくさんあると思っています。
そして、うつ病の理解を妨げる理由の一つが、この因果で物事を考えようとすることだと思っています。
さて、うつ病の診断基準は、以下のとおりです。
【うつ病の診断基準】
●下記の①と②のどちらかに当てはまり、かつ、①~⑨のチェック項目のうち、5つ以上の症状がある
&
●症状が一日中、かつ、2週間以上続いている<主となる症状>
①気分の落ち込みが続いている(抑うつ状態)
②何事にも興味が持てず、楽しいはずのことが楽しめない<そのほかの症状>
③よく眠れていない
④食欲がない。または、食べすぎてしまう
⑤疲れやすい。または、気力がない
⑥思考力や集中力が落ちている
⑦動作や話し方がゆっくりになっている
⑧何でも自分のせいにし、責めてしまう(自責感)
⑨生きていても、しかたがないと思う引用(一部改変):総監修 尾崎紀夫(2016)『よくわかるうつ病 診断と治療、周囲の接し方・支え方』NHK出版
病気は全般的に、症状(結果)をもとに病気(原因)が診断されます。
ただ、うつ病の場合は風邪などとは異なり、基本的には検査ではなく問診ですので、目にみえる形で病気(原因)を特定することができません。
なので、うつ病という病気(原因)と症状(結果)が思考の中でつながらず、心から理解できない人が多いのではないかと思います。
そして、きなここ。さんのように、特に予兆がなくうつ病に罹るケースは一定数あります。
こうしたケースもある中、うつ病のことを理解するにあたって大事なことは、「症状(結果)を信じてあげる」ということなんだと思います。
そのためには、なんでもかんでも因果で考える思考から離れる必要があると思っています。
よく事例として出される誤解として、「うつは甘えだ」が挙げられます。
これは、「甘え(原因)→うつ症状(結果)」というように結論づけて、自分の頭の中で理解しようとしているんだと思います。
うつ病の正体は、研究も進んできて、目にみえるような形で学術的な理解は進んでいます。
ただ、目に見えづらいものであることは変わらないので、一般の人にとっての理解は安易なものではないと思います。
だからこそ、うつ病の理解にあたっては因果の枠から一旦離れて、「症状(結果)を信じてあげる」ことが、まずは大事なんじゃないかと思います。
(2)うつ病の症状について
先ほどの因果の枠組みでの考え方で説明しましたが、「うつは甘えだ」と誤解されることがあります。
このとおり、人間のバイアスにも関わる話ですが、他者の心理的な問題は、他者の内面性(性格や気質など)に原因を求めるような傾向があります。
しかし、うつ病の理解においては、この考え方が誤解を招くことになります。
うつ病になりやすいのはある特性の性格の人ではないか、と一般には考えられています。たしかに、「子どもの頃から不安を感じやすい人は、うつ病になりやすい傾向がある」という研究結果が報告されています。
(中略)
しかし、そういう傾向が認められるだけで、絶対的なものではありません。むしろ、うつ病は性格にかかわらず、誰もがなる可能性がある病気だといえるのです。
(中略)
物事を否定的に捉える性格ではなく、うつ病になった結果、そのような考え方をするようになっているのです。
引用:総監修 尾崎紀夫(2016)『よくわかるうつ病 診断と治療、周囲の接し方・支え方』NHK出版
きなここ。さんが、「うつ病が本人の意に反して負の気持ちにさせる」と仰っていたように、うつ病の理解はその人の内面性(性格や気質など)に起因するものではなく、病気に基づくものだという理解が大事なわけです。
その一方で、きなここさんが仰っていたとおり、自分自身でも症状を正確に理解することができないため、周囲の人の考え方に押しつぶされてしまい、負の思考にとらわれてしまうことがあります。
うつ病の患者さんは、周囲の人たちから「甘えている」「怠けている」などと誤解されることがあります。本人自身もそう考え、「病気ではなく、怠けているだけ」「みんなに迷惑をかけている」などと、自分を責めてしまいがちです。
しかし、いろいろなことができなくなるのも、否定的なことばかり考えてしまうのも、うつ病という病気のためです。
引用:総監修 尾崎紀夫(2016)『よくわかるうつ病 診断と治療、周囲の接し方・支え方』NHK出版
私が以前にうつ病の当事者同士の交流会に参加したとき、人によって共通する症状もあれば、そうでない症状もありました。
これが、うつ病の理解を妨げる要因の一つでもあると思っています。
ですが、先述のとおり、うつ病の理解にあたっては因果の枠を離れて、まずは「症状(結果)を信じてあげる」ということが、非常に大事だと思っています。
そして、その先に「その人の内面性(性格や気質など)とは別に、うつ病がその人の症状を引き起こしている」という理解が、当事者が自分自身を追い込まないためにも、重要なのではないかと考えています。
(3)精神科・心療内科での治療について
私自身、初めて精神科にかかるときは、かなり不安がありました。
それは、親から色々と聞かされていた、誤ったイメージが頭によぎっていたからです。
ただ、実際には、内科とあまり変わらない雰囲気ですし、病院側も通いづらい雰囲気を取り除くような工夫をしていることが多いです。
なんで私がこんなことを言うかというと、「うつ病だと思ったら、早く病院に行ったほうがいい」と考えているからです。
それには、明確な理由があります。
うつ病を放置すると、症状や環境が悪化します。「たいしたことない」「こんなものは気の持ちようだ」と思い込んで放置していると、取り返しのつかない事態に発展してしまうこともあるのです。そうならないためにも、うつ病は早く見つけ、早く治療することが大切です。
もう一つ大切なのは、ほかの病気の存在をチェックしておくことです。ほかの病気によってうつ病が引き起こされることがありますし、うつ病がほかの病気を引き起こすこともあります。
引用(一部改変):総監修 尾崎紀夫(2016)『よくわかるうつ病 診断と治療、周囲の接し方・支え方』NHK出版
このように、病院に行くのを躊躇うことによるデメリットは、非常に大きいわけです。
また、精神科や心療内科にかかることへの抵抗感として、投薬治療が挙げられると思います。
今でも、投薬に対しては、依存性や副作用の観点から、批判されることがあります。
しかし、私自身の実体験でもそうですが、うつ病の治療には長期的にゆっくりと、規則正しい生活を取り戻していくことが大事であり、投薬はその手助けになります。
抗うつ薬は、抗生物質などのように決して病因に対してダイレクトに効果があるものではありませんが、脳の機能不全の改善につながり、普通に生活をするための基盤を整えてくれます。
投薬に対する治療がもし不安であれば、医師に聞けば丁寧に教えてくれる方が多いと思いますし、病状にもよりますが、投薬以外の治療法(カウンセリングなど)も提案してくれる場合もあります。
また、医師が信用できなければ、セカンドオピニオンも有効です。
きなここ。さんが仰っていたように、薬やカウンセリングは「普通に生きる」ために必要なものなのです。
生きていく上では、自分で自分をコントロールすることが大事であり、うつ病によって自分で自分をコントロールできない状態では、投薬やカウンセリングが一助になるわけです。
薬によって自分がコントロールされるという印象を持たれる方も多いかもしれませんが、それは少数ケースです。
なので、うつ病においては、治療に対する理解も広がると良いと思いました。
(4)周囲の人からの接し方について
うつ病の理解は以前よりも広がってきましたが、心から理解をできないという人も実際には多いのではないでしょうか。
その一方で、きなここ。さんが仰っていたとおり、うつ病になると周囲からの支援は非常に大事になります。
うつ病の患者さんのなかには、自分を責めるあまり、「生きていても、しかたがない」「死にたい」と言ったり、実際に自殺というつらい選択をしてしまう人もいます。それを防ぐには、家族や周囲の人の支えが非常に重要です。うつ病とは自殺と関係の深い病気であること、そして、自殺につながりやすい“危うい時期”があるものと理解したうえで、様子の変化にいち早く気づけるよう、患者さんの声に耳を傾けてください。
(中略)
患者さんの話をふだんから親身になって聞くことで、“この人は自分の話を聞いてくれる”という安心感が芽生える。自殺という考えが浮かんだときにも、相談してくれる可能性がある。
(中略)
大事な人との約束は、患者さんをつなぎとめてくれることが多い。患者さんに「死にたい」「消えてしまいたい」などと言われたときは、その気持ちを否定せずに話を聞き、その気持ちやつらさは病気によるものであると伝えたうえで、自分から命を絶たないことを約束してもらおう。
引用:総監修 尾崎紀夫(2016)『よくわかるうつ病 診断と治療、周囲の接し方・支え方』NHK出版
特に、うつ病がきっかけで、自殺を引き起こすケースもあります。
最悪なケースを避けるという意味以外にも、うつ病を抱えながら生活を整えていくにあたっては、身近な人の理解がとても大事になります。
これは、私自身の経験でも痛感しています。
以前、ベストセラーになった『うつヌケ』という漫画があります。
この漫画の内容としては、どうやってうつ病を解決していくかという明確な答えが描かれているわけではなく、うつ病の症状や付き合い方が視覚的にわかりやすく描かれています。
ただ、解決方法が描かれているわけではないですが、私自身も然り、当事者目線においては自分の症状を客観的にみることによって、安心感がもたらされるわけです。
当事者としての周囲への期待としては、決して答えを求めているわけではなく、「わかってほしい」という気持ちが非常に強いわけです。
なので、自分の話をしっかりと聞いてくれて心から理解してもらうということがわかっただけでも、安心感につながり、それが生活の改善への糧にもなるわけです。
だからこそ、周囲の人によるうつ病の理解というのは、当事者にとっては大きな救いになります。
そして、うつ病を経験していない人でもうつ病を理解することができれば、世の中の「うつ病」の重さが低減されるのではないかと、私は思っています。
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おわりに
さて、今回の記事はいかがでしょうか。
記事の冒頭に申し上げたとおり、先日友人から、「うつ病になったパートナーのことを理解できない」ということを聞きました。
でも、きなここ。さんとのお話を通じて、うつ病の理解が広がることが改めて大事だと感じました。
私自身、うつ病のときに誰とも連絡が取れず、味方は減っていきましたが、自分にとって近い存在が味方であったことは、本当に心強く感じています。
先日、私はこんなツイートをしました。
私の友だちが、うつ病になった奥さんのことを「理解できない」と言っていた。
理解できない奴は放っておけって考え方もあるけど、「理解できない人に対してどう説明すれば伝わるんだろう?」という問いこそが、私は大事だと思う。
興味がない人に知ってもらうことは難しいけど、そこに真価がある。
— ぽん乃助|繊細な人の働き方戦略ブロガー (@suke_of_pon) September 5, 2021
当事者にとって、「自分がうつ病になってこういう状態にある」と客観的に知ることも大事ですが、周囲から手助けを得るためには、興味がない人にこそ、うつ病を理解してもらうことが大事なんじゃないかと思っています。
だからこそ、私自身、今後もこうした理解を広げるための発信は続けられればと思っています。
今回の記事の中でも紹介した、以前に参加したうつ病当事者同士での交流会について、記事にまとめたことがありますので、以下のリンクから参考にしてみてください。
【対談vol.12】当事者同士で語るうつ病との向き合い方とは?
さて、今回はこの辺で終えたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ぜひ次回も、よろしくお願いします。
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